[]Amazonで評価が高い漫画は何が違うのか。




 ということをつらつら考える今日この頃。世の中にぼくが傑作だと思う作品はたくさんあるわけだが、そういう作品でもあるものは評価が高く、あるものは低いという格差がある。この差を生んでいるものは何なのか。たまたまだといえばそれまでだが、そうではないという前提で話を進めてみよう。

 ご存知かと思うが、Amazonでは各レビュアーが★★★★★満点の五段階評価で作品を評価するシステムになっている。で、その平均が割り出され、「おすすめ度」として表示される。

 当然ながら、の数が多いほど評価が高いわけだが、ひとりふたりが五つ星評価を付けていてもあまり意味はない。それこそたまたまそのレビュアーが高く評価しているだけ、という可能性が高いからだ。一方、何百人というそれぞれ価値観が異なるレビュアーが評価して、しかもその平均がきわめて高いとなると、これは名作の可能性が高いことになるだろう。

 また、平均値というシステム上、いくら五つ星を付けているひとが多くても、ひとりでも星一つ評価を付けているひとがいると、その作品の評価はがくんと下がる。したがって、何十人、何百人のレビュアーが評価して、しかも平均が五つ星(正確にはその近似値)という作品は、非常に稀有ということになる。

 もちろん、ないわけではない。現在、Amazonを見てみると、漫画おすすめ度ランキングを見てみると、そういう快挙を達成している作品がいくつか見つかる。具体的にいえば、100人以上の評価で平均五つ星を達成している作品は、『夕凪の街 桜の国』、『ワイド版風の谷のナウシカ』、『よつばと(1)』、『HUNTER×HUNTER(24)』の四作である。



夕凪の街桜の国

夕凪の街桜の国



ワイド版 風の谷のナウシカ7巻セット「トルメキア戦役バージョン」

ワイド版 風の谷のナウシカ7巻セット「トルメキア戦役バージョン」



よつばと! (1) (電撃コミックス)

よつばと! (1) (電撃コミックス)



HUNTER×HUNTER 24 (ジャンプコミックス)

HUNTER×HUNTER 24 (ジャンプコミックス)

 なんというか、「ああ、そうだろうねえ」というラインナップであるが、これらの作品が名作であることは疑えないとしても、そのほかの作品とどこがどう違うのだろう、とぼくなどは思う。ほかにも名作はあるではないか?

 まあ、色々な条件が考えられるのだろうが、結局、構成力と演出力の差だと思うんだよね。あるひと言の台詞、ひとつの場面できっちり読者を感動させる、その精度の高さが重要なのではないかと。

 ひとは、当然、それぞれ個性というものがあり、さまざまな考え方を持っている。あるひとが気に入るものが、べつのひとは気に入らない。それが当然だ。その上で、それらのひとが、同じ場面で、同じような感情を抱くということの凄み。

 それはもちろん偶然にそうなるのではなく、作者の緻密な計算の結果なのである。あるひと言で全読者が感動するということは、そうなるよう仕組まれているということなのだ。

 名台詞とか名場面いうものは、じっさいにはその台詞、その場面そのものが特別であるわけではなく、それを特別にするための前準備こそが重要であったりするわけだ。あるひと言、ひと場面で感情を揺さぶるために全体を構成し、そのページを演出する、そのためには精密機械さながらの精妙さが必要だといえるだろう。

 最近、その凄みを感じたのは、なんといっても羽海野チカ3月のライオン』の第4巻と第5巻である。内容のおもしろさもさることながら、一冊の「本」としての構成が素晴らしい。あきらかに本としてまとまったときに最も効果的に読者を揺さぶるように構成されているのである。



3月のライオン 4 (ジェッツコミックス)

3月のライオン 4 (ジェッツコミックス)



3月のライオン 5 (ジェッツコミックス)

3月のライオン 5 (ジェッツコミックス)

 だからこそ、それぞれの巻を読めば、だれもが、とはいわないまでも、大半のひとが、「「生きてる」って気がするぜぇ」とか、「だって私のした事はぜったいまちがってなんかない!!」という台詞に心打たれる。

 いうは易し。それをじっさいにやってのける力量は、やはり恐るべきものがあるといわなければならない。この作品、当然のように平均五つ星を達成している。充実、とはこれをいうのだろう、と思う。賛否両論を呼ぶからこその傑作もたしかにあるが、しかし、一方で「万人受け」という言葉の裏に秘められた壮絶を思うと、圧倒される思いがするのである。