[]ジャンルフィクションとは最初の作品の脚注である。




 LDさんがロボットアニメとアメコミを比較検討する記事を挙げています。


 また、アメコミヒーローズに対する『ウォッチメン』と、日本のスーパーロボットものに対する『機動戦士ガンダム』は、非常に近しい位置づけであると考えています。……考えていますけど、同時に違うものじゃないか?という直感もあります。

 非常に興味深い話だと思います。ぼくはアメコミには詳しくない――というか、じつは一冊も読んだことがない(汗)というじつに文化レベルが低い男なのですが、いろいろ話を聴いていると、非常に面白そうな世界ではあります。はまったらいくらお金があっても足りないという気もしますが。

 で、そこでそこでぼくが考えるのは、ジャンルフィクションというものの宿命について。ジャンルフィクションって、本質的に新しいものはないといえるんじゃないかと思うんですよ。

 ジャンルフィクションにおいてできることは、そのジャンルにおける最初の作品(オリジン)をいろいろ裏返したり、拡張したり、また変質させたりすることだけで、根本から新しくすることはできない。また、だからこそ「ジャンル」というものが成立するんじゃないかということなんですけれど。

 いや、あたりまえの話かもしれませんが――「すべての西洋哲学はプラトン哲学への脚注に過ぎない」という言葉がありますが、それに倣っていえば、SFはウェルズ作品の脚注であるに過ぎず、ミステリはポオ作品の脚注であるに過ぎないといえるんじゃないかな?とか思ったりするわけです。

 ぼくがいっていることがどこまで伝わるか不安なのですが――まあ、ようするに「ジャンルフィクション」とは何かしらの「コード(お約束)」に従っているからこその「ジャンル」であるわけです。

 そのコードを作るのはオリジンです。しかし、あるコードにのっとった作品が長年続いてゆくと、どこかの時点でそのコードそのものの欺瞞性をばくろしようとする作品が誕生します。たとえば「この嘘くさい勧善懲悪を相対化してみよう」とか「徹底的に細部にこだわってリアルにしてみよう」という考え方が生まれるわけです。

 それがロボットアニメでいえば『機動戦士ガンダム』にあたり、アメコミでいえば『ダークナイト・リターンズ』や『ウォッチマン』なのかな? ミステリでいえば――そうですね、レイモンド・チャンドラーあたりにあたるんじゃないか。つまりハードボイルドですね。ヒロイック・ファンタジィでいえば『エルリック・サーガ』とか。

 ここらへん、ちゃんと検証しているわけじゃないので思いつきの域を出ませんが、まあでも、そんなふうにしてジャンルは進んでいくのかな?と。たとえば中国の武侠小説なんかも同じだと思うんですよね。

 金庸に『鹿鼎記』という作品があるのですが、これは武侠小説のあらゆるコードを逆転させた「メタ武侠小説」なのです。ざんねんながら日本には武侠小説はほとんど入ってきていないので、くわしく検証することはできませんが、発表当時、この作品のインパクトは相当なものだったはずです。

 どのジャンルも、初めは勧善懲悪、王道の物語から始まると思うんですよ。そしてそれがそのジャンルのコードを作る。しかし、そこからメタやらアンチやら先祖帰りやらいろいろな派生が生まれて、ジャンルを華麗に彩っていくのだろうなあ、と。

 その派生を脚注といってもいいし、批評といってもいいし、いっそ二次創作といってもいいのですが、それをひとつひとつ追いかけていくのがジャンルを追いかける楽しみなんでしょうね。ただ、そうやって果てしなくいじりまわしていると、一般人にはわかりづらいものになってそのジャンルの人気は落ちます(笑)。

 で、まあ、どんなジャンルフィクションもやがてバロック化するわけですよね。ロボットものでいえば、『ファイブスター物語』とか、ああいうものが出てくる。ミステリでいえば『黒死館殺人事件』とか『匣の中の失楽』とか。豪華絢爛装飾過剰の方向にいく。

 これは『ガンダム』とか『ジョジョ』とかそれじたいひとつのジャンルといえる作品にもあてはまることだと思う。友人と最近の『ジョジョ』はむずかしくなってきているよね、という話をしばしばするのですが、それもある種、宿命的なことなんでしょうね。

 どこかで王道復古が必要で、そうしないと、表現はバロック化の果てに沈没するんだろうなあ。『ジョジョ』のばあい、『スティール・ボール・ラン』でやろうとしたことはそういうことだったと思うのですが、それも最後にはやっぱり複雑化しちゃっているので、なかなか厳しいものがあります。

 そういう意味では、こんどの『ガンダム』はおもしろい試みだよなあ。『ガンダム』ジャンルの場合、オリジンが既にロボットアニメジャンルへの批評ないし脚注であるわけで、そのオリジンを超えてさらなるオリジンへと回帰するとああいうことになる、ということなのかな。おもしろいですね。