[]『ヴィンランド・サガ』に見る孤高、『ヒストリエ』に見る飄々。




 しょっちゅう取り上げているのだが、幸村誠ヴィンランド・サガ』が素晴らしい。連載が始まった頃は「絵の描き込みは凄いけれど、内容はまあまあかな」などと冷めたことを思っていたのだけれど、いまとなっては、その内容の深みに圧倒される。

 第7巻でようやく「プロローグ」が終わり、タイトルにある「ヴィンランド」を巡る物語が始まろうとしているわけだけれど、いったい何がどうなって主人公トルフィンが遙かなるヴィンランドにたどり着くのか、いまの時点では想像もつかない。

 いまリアルタイムで読める大河歴史漫画としては同じ『アフタヌーン』連載の『ヒストリエ』と双璧をなす傑作だと思う。主人公が途中で奴隷に落とされたりするあたりも『ヒストリエ』と似ているかも。そうして、両作品とも、いったいいつになったら完結するのか、全く見えない。

 しかしまあ、へたすると一年に一冊も単行本がでない『ヒストリエ』に比べれば、『ヴィンランド・サガ』の歩みは着実だ。『ヒストリエ』の場合、これからアレクサンドロス大王の東方遠征が描かれるはずなのだから、どう考えてもあと5年や10年では終わらないと思うのだが、『ヴィンランド・サガ』は淡々とエピソードを消化していく。

 今月号では、ふたたび、いまや王となったクヌートにスポットライトがあたる。かれは国土を火で焼き、仲が良かった兄弟に毒を盛りすらして、着々と覇王の道を歩む。いまやかつての柔弱な美少年の面影はかけらもない。決意に満ちた「男の顔」をしている。

 しかし、そんなクヌートをだれも信じることができず、だれにも心を開くことができない「王者の孤独」が蝕んでいく。そうして、それすらも覚悟していたことだとばかりに、クヌートは「こんなものか」とつぶやくのだった。

 一方、『ヒストリエ』も新章に入っている。いまやマケドニアの重要人物にまで成り上がったエウメネスに、新たな物語が開ける。エウメネスはあいかわらずひょうひょうとして掴みどころのない青年だが、その地位は少しずつ上がっていき、その才能もまた花開いていくのだ。

 「いつになったらペルシア戦争や東方遠征が始まるの?」とじれてしまうところがなきにしもあらずではあるが、やはり、圧倒的におもしろい漫画である。作中時間で少なくともあと2、30年は進むはずなのだが、さて、途中ショートカットするのか、しないのか……。いつまででも付いていくが、いったいこの漫画が完結する頃には、日本社会はどう変わっているのやら。

 『ヴィンランド・サガ』に見る孤高、『ヒストリエ』に見る飄々、いずれもこよなく魅力的で、深遠だ。いずれも日本人にはさほどなじみのない時代、世界を詳細に描いて魅せる漫画であるが、その個性は対照的である。こういう作品が存在する現代漫画の豊穣を思う。いつか完結したら一気にまとめ読みしたいものです。



ヴィンランド・サガ(1) (アフタヌーンKC)

ヴィンランド・サガ(1) (アフタヌーンKC)



ヒストリエ(1) (アフタヌーンKC)

ヒストリエ(1) (アフタヌーンKC)