吸血鬼たちの長く昏い歴史。




 なおもGOTHな日々は続く。というわけで、高野真之BLOOD ALONE』を読んでいる。



BLOOD ALONE(1) (イブニングKC)

BLOOD ALONE(1) (イブニングKC)

 まあ、ゴスとはちょっと違うかもしれないが、吸血鬼ものであることは間違いない。作家にして探偵の青年クロエと、吸血鬼の少女ミサキの微笑ましくも危うい同居生活の物語である。このあいだまで『電撃大王』に連載されていたのだが、先日、掲載誌が『イヴニング』に移った。

 どんな事情があったのかはわからないし、また興味もない。とにかく、連載が途絶えず読めることに感謝するばかりである。願わくは、このまま完結まで連載が続くことを。

 さて、吸血鬼といえばモンスター界最大のヒーローである。いまやその人気においては、人狼もミイラも、到底及ばないだろう。もともと吸血鬼とはごく野蛮で野卑な怪物だったのだが、ひとつの作品がかれらに秀麗で貴族なイメージを与えることに成功する。ポリドリの『吸血鬼』である。

 かのメアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』と同じ起源を持つこの作品は、詩人のバイロンをモデルにしたといわれる吸血鬼ルスヴン卿を産み出して一世を風靡した(ここらへんの事情は長くなるので省略する。ググればすぐ出てくるはず)。

 このルスヴン卿、キム・ニューマンの『ドラキュラ紀元』では英国を支配するドラキュラの宰相として登場したりするのだが、吸血鬼という存在に耽美な印象を与えたのはまさしくかれであるらしい。

 もっとも、その貴族的印象を普遍化したのは、黒衣颯爽と銀幕で活躍したベラ・ルゴシクリストファー・リーといった俳優の力のようだ。ぼくはホラーにはうといのでここらへん、全然詳しくはないのだが、かのドラキュラ伯爵はシャーロック・ホームズに次いで映画作品登場回数第二位のキャラクターであると何かで読んだことがある。映画あってのドラキュラ、なのだ。

 で、こういった古色蒼然たるイメージの吸血鬼たちを、美貌のヒーローとして現代に蘇らせたのはアン・ライスの『夜明けのヴァンパイア』(映画版のタイトルは『インタヴュー・ウィズ・ヴァンパイア』)だ、というのが通説である。



夜明けのヴァンパイア (ハヤカワ文庫NV)

夜明けのヴァンパイア (ハヤカワ文庫NV)

 しかし、もちろん、日本では事情が異なる。我が国にはライスが『夜明けのヴァンパイア』を書くより早く、美貌と気品と悲劇性を兼ね備えたヴァンパイア・ヒーローを生み出した天才作家がいるからである。いうまでもなく、萩尾望都の『ポーの一族』がそれだ。



ポーの一族 (1) (小学館文庫)

ポーの一族 (1) (小学館文庫)

 主人公がエドガーとアランで、タイトルがポーの一族というのはわりととんでもないダジャレだが、内容の耽美性、数百年の歴史を超えるストーリーの壮大さ、いずれもライスの作品を凌ぐものがある(クローディアよりメリーベルのほうが可愛いよなあ)。

 というか、人類が生み出した吸血鬼物語のなかでも白眉というべき一作なのではないだろうか。『BLOOD ALONE』もこの偉大な先達の影響の下で描かれた作品であるわけだ。吸血鬼の歴史は長い。これからいかなる作品が生まれてくるか、楽しみである。